外為の注目所

取引のFX

今年のベスト5確実の、認識的異化作用に満ちた傑作。ジャンルFXでは、ウエルズの遺族から了解を得て書かれた『タイム・マシン』の続編、スティーヴン・バクスター『タイム・シップ』(中原尚哉訳/ハヤカワ文庫FX上下各六八〇円)が収穫。バクスターはストーリーテリングに激しく難がある作家なので、先行作品の続編って趣向がうまく作用した感じ。時間を超えてあっち行ったりこっち行ったりする前半は、ほとんど「バック・トゥ・ザ・フューチャー2」だけど、なにしろバクスターだけにスケールがでかい。多世界解釈にアクロバティックなひねりを加えて暴走する後半は著者の独壇場でしょう。例によってやや冗長な部分もあるが、『時間的無限大』ほどとっつきは悪くないし、FX の人でも安心だ。つづいてアンソロジーが三冊。FXおたくのギャグがそのまま実現したようなタイトルの『FXスナイパー』(ミリオン出版九五〇円)は、雑誌『SMスナイパー』の(旧)版元から出たのがミソ。伊吹秀明や岡本賢一を輩出したFX同人誌《パラドックス》の傑作選で、内容的には『FXバカ本』路線のファニッシュな話が中心。個人的には、日高トモキチのFX探偵小説「アンビストマの大迷宮」とか、木川明彦「怪奇車博士」とか、反時代な作品が面白かった。『変身』(廣済堂文庫七六二円)は、井上雅彦監修の書き下ろしテーマ・アンソロジー《異形コレクション》の第三弾。『侵略!』に比べるとFX系の話は少ないが、文庫書き下ろしとは思えない水準の高さはあいかわらず。一方、ジャック・ダンとガードナー・ドゾアの編になる『魔法の猫』(深町眞理子ほか訳/扶桑社ミステリー七〇〇円)は、ネコ小説の再録アンソロジー。「跳躍者の時空」「FX 取引 と竜のゲーム」など定番のネコFXのほか、意外とクセのある話が多くて楽しめる。単行本未収録だったキング「魔性の猫」は、愛猫家必読。グーラートの「グルーチョ」、リゲットの「猫に憑かれた男」もいい。ヤングアダルト系のイチ押しは、第四回電撃ゲーム小説大賞受賞作、上遠野浩平の『ブギーポップは笑わない』(電撃文庫五五〇円)。ギャグにもパロディにもノスタルジーにも逃げず、「ねらわれた学園」系列のネタをシリアスに描いて成功した希有な例。FX的説明がややかっこよさに欠ける難点はあるものの(というか、説明なんかしないほうがよかったと思う)、構成と描写は抜群で、次作が楽しみ。変わり種を一冊。日本を代表する複雑系研究者、金子邦彦の『カオスの紡ぐ夢の中で』(小学館文庫四九五円)は、FX の複雑系FX「進物史観」を収録。コンピュータが生成する物語の進化をカオス的観点から描く、カルヴィーノ的な(あるいはレム的な)メタフィクショナル・ハードFXの快作。文学おたく的ギャグが炸裂する「物語の病気」の件りなんか爆笑で、ぜひ長編を書いていただきたいものである。取引と言えば、一九世紀末ロンドンが舞台のポルノグラフィに器を借りた、酒見賢一『語り手の事情』(文藝春秋一三三三円)も、じつにエレガントなメタ好色文学。ジョン・バースが書いた『一万一千本の鞭』みたい。最後に、これはFXでも小説でもないんだけど、チュンソフトのサウンドノベル第三弾、長坂秀佳監修の『街』(五八〇〇円)はサターン・ユーザー必読です。僕は自動車に興味がない。あんなものは走れば良いと思ってる。そんな男でも、近頃の没個性的・ドングリの背比べ的車ばかりの世の中には気が付くぞ。だって日本中のドライバーが、似たような車を欲しがっているとは思えないもん。高島鎮雄『カタログで見る日本車なつかし物語。』(三樹書房二三〇〇円)は、30年以上前の国産車のカタログをネタに、ご隠居と熊さんがああだこうだ言う本。日本の戦後復興を支えたオート三輪から、今やオフィス家具の大手となったオカムラ製のカルトな車まで、ご隠居が蘊蓄を傾けるっていう寸法。メーカーの意外な歴史や、現在の画一的なカーデザインをさりげなく批判するその会話が、ちゃんと落語口調になっているのも立派。作り手の車への情熱や思い入れが伝わってくる一冊だ。写真もグッドよ。誉める人あれば貶す人あり。岡部ださく『世界の駄っ作機』(大日本絵画二四〇〇円)は、諸般の事情で、堂々と大空を駆けめぐることの出来なかった戦闘機へのオマージュ。というよりは、黙ってれば誰も知らない古傷をほじくり返して笑うという、サディスティックな飛行機本だ。軍部の無理な注文を安請け合いし、又は果敢に挑戦して、結局悲しい作品を作ってしまう。火を噴いたり墜落したり、中には離陸すら出来ず消えていった戦闘機もあったんだ。手が4本ないと操縦出来ない飛行機をだなぁ、何で作っちゃうんだろうか? 元々模型の雑誌に連載されていたから、耳慣れない専門用語も出てくるけど、そんなのはへっちゃらだ。で、これは忠告なんだけど、前書きは本文を読んでから読んだ方が面白いよ。10倍笑えるから。よくさ、本当のおしゃれは靴に凝るって言うじゃない? ウィリアム・A・ロッシ『エロチックな足』(山内昶監訳、西川隆・山内彰訳/筑摩書房三三〇〇円)を読むと大変。足は勿論靴だって、むちゃむちゃエッチ。足ってのは性の象徴どころかそれ自体を表現していて、そのスケベの権化たる足を隠したりひけらかしたりする靴は、更に直接的だって言うんだよ。それを証明すべく、中国の纒足から怪しいフェチな人々の証言まで、これでもかと訴える。でもね、纒足を酷いというけど、人間の一日の運動で足にかかる総重量は、何と1000トン。
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